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【保科宗四郎】副隊長は思ったより私のことが好きらしい【怪8】

第3章 苦くて甘い人生を


 ムスッと口をへの字に曲げたままの私を見て困ったように、でも楽しそうに笑った彼は少し尖った私の下唇をつついて遊んでいる。……そういうところだぞっ! 保科宗四郎めッ!

「いつになったらデレてくれますん?」
「……宗四郎くんに」
「うん?」
「宗四郎くんに私があーんってしたら、デレるかもしれない」
「そこはあーんってしてほしいって言うとこちゃうん」
「私はしたいの!」
「ほんならちゃんの気ぃ済むまでどんなけでもどうぞ」

 可愛らしく「あーん」なんて言いながら口を開いた彼は親からの餌を待つ雛鳥のよう。ちらりと覗く八重歯に少しだけキュンと胸を高鳴らせながら、いそいそとキッシュをフォークで切り分ける。一口サイズになったそれをゆっくりと宗四郎くんの口元は運べば、待っていましたと言わんばかりにパクリと食い付いた。……え、待って。私、何か新しい扉が開きそうなんだけど。
 もぐもぐと一生懸命口を動かしている宗四郎くん、めちゃくちゃ可愛すぎない? さっきアホみたいな力加減で私の腕掴んでいた人と本当に同一人物なの?
 はわわ! と口をわななかせながら目をキラキラさせている私を見て、うっすらと紫紅の瞳を覗かせた彼は満足したように笑ったあと「もっ回」と言って、今度は先ほどより更に顔を近づけて口を開けた。そんな期待に満ちた眼差しで見つめられたら息が詰まるんですけど……!
 可愛い可愛い可愛い、と私の脳内が大合唱していてちょっとどころか大分とうるさい。

「雛に餌あげる親ツバメの気持ちってこんな感じなのかな……」
「何で僕がちゃんの子ども扱いなん。夫婦にしてぇや」
「あ! ふれあい動物園でモルモットに餌あげてるときの気持ちに似てる!」
「──ほぉん?」

 ぴくりと眉毛を動かしながら意味深に頷く彼に嫌な予感しかしなくて……口の端をひくつかせながら距離を取ろうとするも、するりと指を絡めとられて動きを封じられてしまう。うん、選択肢をミスったかもな。
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