【保科宗四郎】副隊長は思ったより私のことが好きらしい【怪8】
第3章 苦くて甘い人生を
にっこりと笑った彼が手を伸ばしたのは何故かブルスケッタを食べ終わった私の手。糸目すぎて本当に前が見えているのかな? と、疑問には思っていたけれど……やっぱり見えていなかったのか。なんて失礼なことを思っている私の手は宗四郎くんに掴まれたあと、そのまま吸い込まれるように彼の口内へ指先が入っていく。
ちゅっと鳴った可愛らしい音とは反対に彼から与えられる刺激は可愛らしいものでは全くなくて……驚きのあまり反射的に手を引っ込めようと動かしたものの、びくともしなくて「え?」「あッ」「お」と母音だけがテンパった私の口から飛び出してくる。
くっ……全然手が動かせない! 忘れてたけどこの人、私よりずっとずっとゴリラなんだった! 手の甲に血管浮き出るくらいには力込めやがってこんちくしょお……!
「んっ、ごちそーさん」
「チッ!」
「だはは! 舌打ちしよった!」
アマのゴリラがプロのゴリラに勝てるわけなかったんだ。解放された指先はしっとりと濡れそぼっていて、先ほどまでの行為を否応なしに思い起こさせる。宗四郎くんが……私の指舐めた……!
その事実に頭を抱えたくなったが、彼の唾液がついた手で自分の顔を触るのは恥ずかしすぎる。とりあえず近くのシンクで手を洗い、キレイになったその手で宗四郎くんの頬をつねってやった。呑気な声で「いひゃーい」と笑っているオカッパなんてもう知らない!
「ちょうど用意できたで食べよか?」
「……食べる」
「そうむくれやんといてぇな」
「保科くんがむくれさせた」
「あ! また苗字で呼びよる!」
「ふんっ」
「僕のおひいさんツンツンツンデレやなあ。ツンが七十五パーセント占めとる」
「ふーんだ!」
「ちょっとくらいええやんか。二人きりになれたん久々やで?」
家主を差し置いて先にテーブル前に移動した私を追いかけてくるようにして、宗四郎くんも珈琲を両手に持って移動してきた。隣に座って私にすり寄ってくる彼は気まぐれな猫のよう。
確かに急な出撃要請が立て続けにあったり、私の夜勤があったりでこうやってゆっくりと二人きりになれたのは五日ぶり。私も会えるのを楽しみにはしていたけれど……これとそれとは話が違う。私の心の準備が全く追い付いていないのだから。