【保科宗四郎】副隊長は思ったより私のことが好きらしい【怪8】
第3章 苦くて甘い人生を
宗四郎くんが買ってきてくれたものを小さなテーブルいっぱいに並べていく。私のお目当てだったキッシュにブロッコリーと海老の何かオシャレなサラダ、ビーツを使ったというピンク色が可愛いポタージュ。見ているだけでテンションの上がる夕飯にだらしなく口元が緩んでくる。
今にもヨダレが垂れそうな私を見て呆れたように笑った彼は「もうちょい待ってえな」と有名なパン屋さんのバゲットでブルスケッタを作ってくれ──え?
「待って待って待って! 何それめっちゃオシャレ!」
「デリに合いそうやったで食堂の隅っこ借りて少し準備しといてん」
「トマトだけじゃなくて生ハムにクリームチーズやアボガド! 美味しくないわけがない!」
「相変わらず食い意地はっとんな」
「自分に素直って言って」
「さよか」
器用器用だとは思っていたけれど、こんなオシャレな料理も作れるなんて。え、私より宗四郎くんの方が女子力高くない? 料理が全くできないわけではないけれど、私の料理はあくまで自分が食べるための料理だからオシャレさは二の次どころか五の次くらい。……これ見た後で宗四郎くんに手料理振る舞うのは躊躇われるなあ。でも今はそんなことより……。
目の前にお行儀よく並んでいる彼の手料理に待ちきれなくなって、そーーーっとバレないようお皿へ手を伸ばす。生ハムが乗ったブルスケッタを静かに摘まんで口へ。生ハムのしょっぱさとフランスパンのカリカリが堪らなく美味しい。ほっぺが落ちる、というかもう落ちたかもしれない。それくらい美味しい。
もぐもぐと幸せを噛み締めていると「うまいか?」と隣から聞かれて思わず素直に返事してしまった。
「それは何よりやけど、摘まみ食いはいただけませんなあ」
「……あ、味見だもん」
「目ぇ泳いどるで」
「う……ごめんなさい」
「なあ、僕も味見してええやろか?」
「ん? うん。ていうか私が作ったわけじゃないんだから宗四ろ──」
「ほんならお言葉に甘えて」