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【保科宗四郎】副隊長は思ったより私のことが好きらしい【怪8】

第3章 苦くて甘い人生を


 宗四郎くんの言っていることは正論だと思うけれど、追い出し方がちょっとなあ……なんて思っていたら「隙ありや!」って声と共に「ごふっ!」という呻き声が聞こえ、カフカさんが廊下に吹っ飛んでいった。ああ……と思う間もなく、無情にも閉められた扉の向こうでカフカさんの声が聞こえている。……うん、ね? こうなる気はしていたけれど。
 ふう、と満足げな宗四郎くんは「何飲む? アルコールはないけど」と何事も無かったかのようにおもてなしをしてくれるけれど、あんな濃い出来事を無かったことにできるんだ。私はまだ扉越しに叫んでいるカフカさんが気になって気になって仕方がないよ。

「珈琲でええか? カフェインレスのやつもあるで」
「あ……うん、珈琲貰おうかな。何か手伝う?」
「ほんならお皿とか箸がそこの棚にあるで出してくれる?」
「ん。わかった」
「なんや同棲しとるみたいでええなあ、このやり取り」

 いつかしたいなあ。なんてさらりと呟くものだから、手に持っていたお箸を危うく落としてしまうところだった。危ない危ない。
 急に言われるこの愛の囁きにもいつかは慣れるのだろうか。……いや、当分は無理かな。慣れようにも耐性が無さすぎるし、恋愛経験値も足らない気がする。自分で言っててちょっと悲しくなるけど。
 いつもの澄まし顔で珈琲を淹れてくれている宗四郎くんは絵になりそうなほど様になっていて、八つ当たりだとわかってはいるけど何か癪だ。

「そんな見られたら穴空くわ」
「それはごめん」
「見とれてた?」
「かっこよすぎてムカついてた」
「ははっ! 何やねんそれ!」
「いつか宗四郎くんをぎゃふんと言わせたい」
「何で恋人にぎゃふんと言わせられなあかんねん。もっと他の言葉がええわ」
「いーや無理だね。ぎゃふんがダメなら、参りましたさまくらいしかないね」
「え? そういうプレイ?」
「違うに決まってるでしょ!」

 意地悪く喉の奥を鳴らして笑う彼の横に立ってポタポタと垂れ行く珈琲を眺める。芳ばしくていい香りが鼻をくすぐって、思わずほう……と息が漏れた。
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