【保科宗四郎】副隊長は思ったより私のことが好きらしい【怪8】
第1章 誰よりも
このまま彼は慰労会に向かうのだろうと思い「では」と短い別れの挨拶をしてトレーニングに戻ろうと踵を返したところで「ちょー待ち」と言う言葉とともに隊服の首根っこを捕まれ、ぐえっなんて潰れた蛙のような声を上げてしまった。仮にも好きな人の前で上げていい声ではないが、こうなった元凶が好きな人張本人というのもいただけない。
苦しかった喉元を擦りながら不満げな顔を隠しもせず振り返ると「すまんすまん」なんて本当に悪いと思っているのか疑いたくなるくらい軽く笑顔で謝られた。……これが他の男性隊員だったらしばいてるところだわ。
「打ち上げ行く気あらへんねやろ?」
「まあ……」
「そうや思てな」
じゃーん! と効果音付きで差し出されたのはコンビニのレジ袋。訳がわからず首を傾げていると袋をがさごそと漁った保科副隊長はにこにこと私に何かを手渡してきた。それをおそるおそる受け取ろうと手を伸ばしたところで──。
「隙ありや!」
「ぎゃっ!」
何か冷たい物を首元に押し当てられて今度は色気も何もない悲鳴が喉から漏れ出てしまった。目を白黒させながら何だ何だと首を押さえながらキョロキョロと辺りを見回す私を見てギャハハと大声で笑い出した保科副隊長をじとりと睨む。……そんなお腹抱えなから笑わなくてもいいじゃん。
私のこともお笑い枠だとでも思っているのだろうか、この人は。だとしたら甚だ遺憾だ。超絶グレてやる……!
ひとしきり笑った副隊長は最後にヒーヒー引き笑いしながら「これ」と言って缶を差し出してきた。今度こそ、と思いおちょくられる前に奪うようにして貰い受けた缶をしげしげと眺める。
「……珈琲?」
「そ。他にも紅茶やジュースもあるで。何がええ?」
「いや、何故?」
「んー? 二人でパーッと打ち上げしよ思て。買うてきたんや」
「──え」
トレーニングルームのど真ん中に胡座をかいて座った保科副隊長は、コンビニで買ってきたのであろう飲み物とお菓子をそこかしこに並べ始めた。その場で立ち尽くしていた私に自分の隣へ座るよう促す彼の横へおずおずと腰を下ろす。