【保科宗四郎】副隊長は思ったより私のことが好きらしい【怪8】
第2章 混ぜるな危険
「……そんなのわかんないじゃん」
「は? 逃がさん言うとるや──」
「宗四郎くんの方が私の虜になっちゃって──離れられないかもでしょ」
いつも閉じられている瞳が真ん丸に見開かれた宗四郎くんは言葉を失ったようだったがすぐにその顔が破綻し、目に涙を浮かべながらだーっはっは! と大きな声で笑い出して自分の膝をバシバシと叩いて可笑しそうにしている。
いったい何が可笑しいのか。不満に思った私は気合いを入れて宗四郎くんの顎に頭突きを食らわせようとしたけれど、片手で頭を押さえつけられてしまい不発に終わった。くそう。
ぐぐぐと力強く押さえつけられすぎて首が痛くなってしまい、二度目の敗北を余儀なくされる。
「僕を言い負かそぉなんてええ度胸やな」
「何言ってんの、事実事実」
「んなわけあるか! ……って言いたいとこやけど」
「ん?」
「僕をダメにできるんはちゃんだけやからなー。虜になってまうのもしゃあないよなーーー」
「ぐえッ! ぐる、じい! ギブギブギブ!」
ギチッとあり得ないほど力で抱き締められ、私の首が悲鳴を上げた。どこの彼氏が彼女を絞め落とそうとするって言うのよ!
うぎぎぎ、と宗四郎くんの腕を引き剥がそうと全力で格闘するも涼しい顔した彼に力で敵うはずもなく……意識が飛びそうになる少し前に解放され、一気に空気が肺を巡って盛大にむせ混んだ。「大丈夫かー?」なんて他人事のように声をかけてくる宗四郎くんが恨めしい。
「……付き合う前のが優しかった気がする」
「好きな子ぉはいじめたなんねん」
「せやかて保科ァ」
「どこぞの西の名探偵見たいに言うな!」
「な、なんやて保科!」
「しかも似とらん! 何やその関西弁は!」
「ハッ! 私は関西人じゃないからバーローって言わなきゃいけなかってのか!」
「気にするとこそこちゃうやろ!」
的確なツッコミを受けながらもう一度バーローとキメ顔してみた。「馬鹿はどっちや」と言われたけれどそんなことは気にしないでいそいそと映画の準備を始める。馬鹿って言った方が馬鹿なんだぞーっと。……いや、その理論で言ったら私が馬鹿になってしまうから宗四郎くんには言わないでおこう。