【保科宗四郎】副隊長は思ったより私のことが好きらしい【怪8】
第2章 混ぜるな危険
そう言って自分の足の間を指差す宗四郎くん。意地悪く口元が大きな三日月を描いているの、なんかムカつくんですけど。ムスッと唇を尖らせながら睨みつけるもにこにこと屈託のない笑顔を向けられ不毛な時間が過ぎるばかり。埒があかない……しょうがないか。私の負けです降参です、と言わんばかりに肩を落としていそいそと彼の脚の間に収まる。
え? これってどこにもたれたらいいの? どこにもたれかかっても宗四郎くんの脚じゃない? どうしたらいいかわからなくて姿勢正しく体育座りをしていると「こっち」と言って後ろから腕が伸びてきて、優しく体が後ろへと倒された。
「捕まえた」
「逃げてもいい?」
「せやなあ……確かに逃げるんやったら今のうちかもしれんで」
「え?」
思ったもみなかった言葉に顔を上げて宗四郎くんの顔を確認。いつもは穏和そうに閉じられた瞳が挑戦的に開かれ、まるで私を見極めるかのような視線がじっとりと送られてくる。
彼の瞳の中にいる私はなんて間抜けな顔をしているんだろう、なんて頭の片隅で考えていたら宗四郎くんの顔が徐々に近づいてきて……ついには私との距離が零になった。
唇に残る──柔らかく熱い感触に戸惑って一瞬思考を停止した頭はすぐに動き始め、一気に処理した結果はオーバーヒート状態。顔をりんごよりも赤く染めながら「あ」とか「う」とか意味をなさない母音ばかりを発してしまう。この人は……! いつも急に……!
「今逃げてしまわんと、僕の虜になって離れへんくなるで?」
「んなっ……!」
「まあその前に──逃がしたらへんけど」
語尾にハートマークまで付いていそうなテンションで言う宗四郎くんはあざとくて可愛くて仕方がない。何で私より可愛いのかな? こんな筋肉ゴリゴリマッチョで、自分より十センチも高い成人男性を蹴り一撃で吹き飛ばすようなパッツン糸目なのに何で私より可愛いのかな?
やーるーせーなーいー。何だか馬鹿らしくなった私は全体重を預けるように彼へもたれかかる。
私を閉じ込めるように腕を前へと回してきた宗四郎くん。私の頭を顎置きにしながら私の髪の毛を指に巻き付けて遊んでいる。だからあざといんだってば。