【保科宗四郎】副隊長は思ったより私のことが好きらしい【怪8】
第1章 誰よりも
「本獣討伐完了」
この言葉を聞くたび──自分の無力さを感じる。私は誰かの役に立てたのだろうかと。
耳に手を当てて「隊、余獣の殲滅及び街の損壊確認に入ります」と伝えれば「了」と短い返事が聞こえたので後ろで辺りを警戒していた隊員に声をかける。
「二時の方向に余獣の群れ。右から回り込んで近くの廃ビルに追いやって。そこで一網打尽にする。そのあとすぐ街の損壊確認と残された住民がいないかの確認。最後の一匹まで気を抜かずにね」
「了!」
▽▲▽
基地に戻って「お疲れ」とあちらこちらから声が聞こえてきたことで、今日の任務も無事に終わったんだという実感がやっと沸き上がってくる。だけどこれで終わりじゃない。今度もいつ怪獣が現れるかわからないのだから。自然と抜けてしまった肩の力を戻すようにぐっとバーベルを握りしめて短く息を吐く。
もっと強くならなければ。これから先も生き残るために。そして──。
「お疲れさん」
この人に生かされないためにも。
「保科副隊長もお疲れさまでした」
颯爽とバーベルを下ろして慌ただしくぺこりとお辞儀をする。角度はもちろん四十五度。「律儀やなあ」って大きな口で笑いながら私の肩をバシバシと叩いている彼は私の上官であり、この世で一番尊敬する人であり、この世で一番──好きな人。
綺麗に切り揃えられた前髪に柔和そうな目元、ちらりと覗くやんちゃそうな犬歯。強くて性格もいい上に格好いいとか本当にズルいよなあ、なんて心の中で文句を垂れる。好きになっちゃう要素しかないんだもん。
額から垂れる汗を腕で拭ってから「何故ここに?」と問いかければ「それはこっちの台詞やわ」と口をへの字に曲げられた。いや、だから、何故。
「今は慰労会の時間では?」
「せやで? せやのに誰かさんがとんずらこいてトレーニングルームおるから気になって気になって来てしもたわ」
「……何となく、気乗りしなかったもので。申し訳ありません」
「ほーん?」
いぶかしげに私の顔を覗き込む副隊長から逃げるように視線を横へと反らした。しばらくその状態が続いていたが「ま、ええわ」と発した彼の言葉にほっと胸を撫で下ろす。余計な詮索をしないでくれる辺り、とても助かる。