第17章 空白の少女と海の記憶
港町の夜は冷たく
ビルの一角から見下ろす警察署の明かりが遠くに揺れていた
蘭花は黒いパーカーのフードを深くかぶり顔を覆う黒い仮面を着けていた
あの夜味野の死を自分の罪として背負い指名手配を自ら望んだ彼女の姿は
すでに公表された指名手配犯の写真に刻まれていた
黒い仮面はかつての白い仮面に代わり
彼女の感情を完全に封じた象徴だった
ハンは彼女の隣に立ち、
警察署の明かりを静かに見つめていた。
潮の匂いが漂う中、彼は小さく声をかける
「蘭花、いいのか…?」
その声は、
ボスとしての冷徹さではなく兄としての僅かな躊躇を帯びていた。
蘭花はそっと振り返ったが、
黒い仮面に表情は隠れ、彼女の瞳すら見えない
彼女は一瞬沈黙し、冷たく無感情な声で答えた。