第17章 空白の少女と海の記憶
「うん、ボス。行こうか」
その言葉はまるで闇そのもののように静かで
感情の欠片もなかった。
彼女は味野との別れを振り返らず、
ただ前を見ていた。
あの倉庫での涙味野の最後の言葉は彼女の心の奥深くに封印され、
黒い仮面の下に隠されていた。
ハンは彼女の声に目を細めわずかに頷いた。
「…ああ、行こう。」
彼の声もまた感情を抑えたものだったが、妹への深い愛がその奥に潜んでいた
彼は蘭花を切り捨てず彼女の選択を尊重した
だが彼女が殺戮者として闇に沈む姿を見るのは兄として耐え難い痛みでもあった
蘭花は暗闇に身を翻しビルの影に溶け込み
彼もまた彼女の後を追うように動き出した
「烏」はふっと現れ、闇に消える
――その名の通り、彼らは警察署の明かりを背に港町から姿を消した。
蘭花は白い仮面を捨て黒い仮面をまとい、感情をなくした殺戮者として街を去った。
味野との思い出…
すべてを胸の奥に封じ彼女は新たな闇へ歩み出した。