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空白の少女と海の記憶

第18章 赤から黒に染まった貴方へ




コツコツっとブーツのヒールを鳴らしながら
彼女はコンテナターミナルの一角で足を止めた
狐面を外すと共に吐いた息が白く空中に舞い上がり
そっと首に巻いているマフラーで口元を隠しながら夜空を見上げる

あれから5年の月日が流れた。

仕事を片し近付くことすら躊躇っていた場所に
自然と足が向きこの場所にいる。

「遠くに来ちゃったな...」

辺りは真っ暗で街灯に照らされ、そう呟く彼女の声に色はなくただ響くだけ
しかし街を出た時程の冷酷さはなく柔らかかった。
彼との最後の場所にそっと腰掛ける
手に持っている缶コーヒー2つをそっと地面に置いた
1つは彼の為に。
もう1つを開け口につけるとブラックコーヒーの苦味が口いっぱいに広がった。

「今日ね...誕生日なの。貴方の年齢こえちゃった」
そう寂しさが混じった声が口からこぼれる。

スマホのディスプレイに表示された0時の文字を横目にほんの少しだけ彼と過ごした日々を思い出した。

笑うとぎこちなく笑い返してくれた彼の顔が今でも鮮明に浮かぶ事に対してまだ忘れられていないと
彼女の唇にほんの一瞬柔らかな笑みが浮かんだ。

そう言えば誕生日なんて聞く暇もあの頃はなくて
彼の事全然知らないなとふっと思う。

あの夜指名手配を自ら選び罪を背負うため感情を殺し仮面で顔を隠し
殺戮者となった彼女は今、兄や仲間と共に過ごした5年の月日が徐々に溶かしていき心を軽くさせていた。


「好きだったな...」

冷たくなった缶コーヒーを見つめていると白いものが落ちてくる。
彼女は空を見上げると白い大きな牡丹雪が落ち顔を濡らし始め帰路を急かす。

はぁっと白い息を吐いて狐面をそっとつけ立ち上がった。

「もう帰ってこないよ。ここには」

未開封の缶コーヒーを背に彼女は薄らコンクリート積もった雪を踏みしめながら歩んでいく。

兄の待つアジトへと。
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