第16章 決別
倉庫の冷たいコンクリートに味野の血が広がっていた
あんなに温かかった温もりが今は...
蘭花は彼のそばに膝をつき数時間動かずに寄り添っていた
涙はもう止まり頬に乾いた跡だけが残っていて
先程まで市場で笑っていた彼女の無邪気な面影は消え瞳に光はなかった。
彼女は彼女に戻る
彼女の心を無が覆い始めていた
「感情など邪魔だ。」
前ボスの言葉が蘭花の頭に響いた。
あの頃、幼い彼女に叩き込まれた教え
――「烏」は闇に生き、感情は足枷になる――
味野の笑顔彼の「蘭花は笑ってる方が似合う」という最後の言葉が彼女の胸を抉った
彼女はそっと味野の頬に触れ冷たくなった肌に指を滑らせる
「ばいばいだね…」
彼女は小さく呟きほんの一瞬、微笑んだ
しかしその微笑みはすぐに消え仮面のような無表情に変わった
蘭花はスマホを取り出しハンに連絡する
声は平坦で感情を完全に封じていた。
「お兄ちゃん…来て。」
彼女は味野の遺体を見下ろし動かなかった。
瞳は空虚でまるで「烏の娘」としての仮面を再び被ったかのようだった