第14章 束の間の幸福
味野の声は軽く口元に微かな笑みが浮ぶ。蘭花は振り返り、照れくさそうに笑った
「味野のコツ、盗んだからね。…もう、味野より上手いかも。」
その笑顔に味野の胸が温かくなった
彼女の笑顔は増え
年相応の少女のような無邪気さが垣間見えた
あの夜の銃撃戦で見た仮面越しの冷徹な「烏の娘」ではなく、ただの蘭花がそこにいた
それでも味野の頭には彼女の突然の訪問の理由への疑問がまだくすぶっていた。
警官の勘が彼女の笑顔の裏に何か隠れていると囁く。
けれど、彼はそれを尊重し敢えて問わなかった。
彼女がここにいるこの瞬間を壊したくなかった
夕暮れ二人は海辺を歩いた
夕陽が海面を赤く染め蘭花の髪を揺らす風が涼しかった
彼女は砂浜に座り膝を抱えて波を見つめた。
味野は隣に立ち彼女の横顔を見た。
笑顔が増えた彼女だがその瞳には時折名状しがたい寂しさが浮かんでいた
「味野…ここ、落ち着くね。こんな時間ずっと続いたらいいのに」
蘭花の声は静かでどこか遠くを向いていた
味野は彼女の言葉に一瞬言葉を失い胸の奥で何かが締め付けられた
「…お前、ほんとバカだな。そんなこと言って敵に隙見せる気か?」
彼は軽く笑って誤魔化したが彼女の言葉が心に刺さった
この5日間、二人は一緒に食事をとり海を見てささやかな会話を交わしまるで普通の生活のように幸せを噛み締めていた。