第13章 彼と....
「…傷、まだ痛む?」
味野は鍋に視線を固定し「大したこととない」と短く答えた。
蘭花の問いに答えながら今回の事には裏があると確信していて
警官の勘が蘭花のぎこちなさや街を離れることを隠す彼女の瞳に何かを捉えていた。
「お前…何か隠してるだろ。」
彼は思わず口に出しだがすぐに言葉を飲み込んだ。
蘭花は一瞬固まるがすぐに微笑んだ。
「隠すようなこと、ないよ。
…ただ、味野に迷惑かけてるかなって。」
彼女の声は軽くだがどこか無理をしているようだった
味野は彼女の瞳を見た
あの夜、仮面越しに聞いた声と同じ純粋さがそこにあったが、何か重いものが隠れている気がした
夜が更けリビングで二人はスープを飲んだ
味野はソファに座り蘭花は床に座り込んでカップを握った
波の音が沈黙を埋める中、味野の葛藤は深まった
彼女を信じたいだが敵である事実は消えない。
彼女がここにいる理由警官としての自分は、彼女を問い詰めるべきだと囁く
しかし彼女の隣にいるこの瞬間、
過去の温もりが蘇り彼は身動きが取れなかった
「蘭花…なんでここに来た? 本当のところを言いなさい。」
彼の声は低く、抑えた感情が滲んだ。
蘭花はカップを見つめ静かに答える
「…味野のそばにいたかった。それだけ。」
その言葉に味野の胸が締め付けられた
信じたい、だが信じられない
――その葛藤が、彼をさらに深い迷路に引きずり込んでいく