第13章 彼と....
夜に蘭花の足音が響くもうすぐ彼の家だ。
足取りは決して軽くはないが少しだけ期待している自分がいた
インターフォンをそっと押す。
味野は玄関のドアを開け、
薄暗い街灯の下に立つ彼女を見た
黒いパーカーのフードを下げ、仮面のない顔が月光に照らされている
蘭花は小さなバッグを肩にかけぎこちなく微笑んだ
「…こんばんは。」
彼女の声は小さくどこか緊張していた
味野は一瞬言葉を失い警官としての警戒心と、彼女の純粋な瞳に揺れる心がせめぎ合った
「…入れよ。」
彼は抑えた口調で言いドアを広げた。家の中は波の音が響き静かな空気が二人を包みこむ
蘭花はキッチンにバッグを置きそっと家を見回し
「あの夜と…変わらないね、ここ。」
彼女の声には過去の温もりを思い出すような響きがあった
味野は彼女の背中を見つめ腕の傷が疼くのを感じた。
「スープ作るか? お前が飲みたいって言ったんだろ。」
味野はわざと軽い口調で言ったが声には戸惑いが滲んでいた
蘭花は振り返り頷く
「うん…手伝わせて。味野のコツ盗みたいの」
キッチンで二人は並び野菜を切り鍋をかき混ぜた
だが会話は途切れがちで互いの立場が空気を重くする
蘭花が包丁を動かす手が一瞬止まり味野の腕の袖口に目をやった。