第13章 彼と....
取引の翌日、ハンと話した夜
蘭花はアジトのベランダで一人夜の海を見つめていた
潮風が彼女の髪を揺らし夜はまだ寒く少し身震いする
ハンの言葉
――「猶予をやる。整理してこい」――
が頭を巡り味野の顔が浮かぶ。
彼女はポケットからくしゃくしゃの紙切れを取り出した。
そこには記憶喪失だったあの頃、
味野がそっと渡してくれた彼のスマホの番号が書かれていた。
「何かあったらここへ」と、彼は笑って言ったのを思い出し
あの笑顔が蘭花の胸を締め付けた
彼女は仮面を外し、深呼吸してスマホを取り出し
指が震えながら番号を押し耳に当てた、
遠くで波の音が響く中呼び出し音が鳴る。
心臓が早鐘のように打ち彼女は言葉を探した
「…はい。味野」
味野の声が聞こえた瞬間蘭花の息が止まった
低めの疲れた声
彼女は一瞬言葉を失い、だがすぐに「烏の娘」としての冷静さを装った
「味野…私、蘭花。」
一瞬の沈黙
味野の声がわずかに揺れた。
「…蘭花? 急にどうした?」
蘭花は唇を噛み、仮面のない顔を夜風に晒した
「あの…1週間くらい、そっちに行きたい。家に…泊めてほしい。」
彼女は街を離れること、ハンの決断を隠した。
味野を傷つけた罪悪感が言葉に滲む。
「この前、味野の腕…怪我させたよね。
家の事とか手伝えることがあれば…。少しでも…償いたい。」
味野は電話の向こうで息を呑んだ
突然の申し出に戸惑いながら彼の頭にはあの夜の銃撃戦の出来事が脳裏をかすめる
「…急に何だよ。家事って…お前、敵だろ。」
彼の声は抑えていたがどこか柔らかく蘭花は小さく笑ったが心は重かった。
「敵でも…味野のスープ、美味しかったから。
もう一回、飲みたいだけ」
栄養など手軽に摂取すればいい...そんな考えだった彼女が口にした素直な理由に味野はしばらく黙りため息をついた。
「…わかった
来いよ。けど変なことすんな。」
彼の了承はぎこちなく警官としての警戒心と蘭花への想いが混ざっていた
蘭花は「ありがとう」と小さく呟き電話を切った
胸の奥で罪悪感と期待がせめぎ合っていた