第12章 新たな事件
組織のボスとしては即座に撤退を命じるべきだったが兄として、蘭花に別れを告げる猶予を与えた
それは彼の最大限の譲歩だった。
蘭花の胸が締め付けられる
彼女はハンを優先することを知っていた
どんなに味野を愛していても兄との絆「烏の娘」としての役割が彼女を縛っていた
だがハンの言葉は彼女に一瞬の自由を与えてくれた
「ありがとう…お兄ちゃん。」
彼女の声は小さく幼い頃からの呼び方が自然にこぼれた
ハンは一瞬目を逸らし煙草の新しい一本に火をつける
彼の表情は再びボスとしての冷徹さを取り戻したが、その背中には妹への深い愛情が隠れていた。
蘭花は部屋を出て、アジトのベランダに立った
夜の海風が彼女の髪を揺らし、遠くで波の音が響く。
彼女は左肩の傷をそっと押さえ、
味野の顔を思い浮かべた
1週間ほどの猶予
――それは、味野と向き合う最後の時間なのかもしれなかった。