第12章 新たな事件
「蘭花、そろそろ出るか。」
その言葉は静かだったが鋭い刃のように蘭花の胸を貫いた
彼女は一瞬息を呑み、だがすぐにその意味を察する。
もうこの街にはいられない
「烏」はフラっと現れ、闇に消える
――それが彼らの名の由縁。
長居しすぎたこの港の町で警察の目が厳しくなる前に組織は次の拠点へ移る必要があった
「うん。」
蘭花の返事は
短く、重い一言。
その言葉を口にした瞬間
心のどこかが少し軽くなった気がした
銃撃戦の混乱、彼を傷つけた罪悪感
――この街に留まることは
彼女にとって不安に苛まれることだった
去ることは、逃げるような感覚と同時に解放の予感でもあった。
ハンは彼女の声に目を細めほんの一瞬雰囲気が柔らかくなったように見えた
普段は冷徹な「烏」のボスとして振る舞う彼だが、蘭花の前では兄としての顔が垣間見える。
「蘭花……少しの期間猶予をやる。整理してこい」
ハンの声は低くボスとしての命令ではなく兄としての優しさが滲んでいた
蘭花は目を上げ、彼を見つめた
ハンは彼女がこの街で何を背負っているかを知っていた
味野との出会い、彼との複雑な関係、そして昨夜の戦闘
――すべてを察しながら、彼女に時間を与えたのだ