第12章 新たな事件
「私…あの家でのこと、忘れられない。」
彼女の視線は真っ直ぐで声は仮面に遮られ
くぐもっていたが心からのものだった
味野の目が一瞬揺れ彼の銃口がゆっくりと下がった
左腕の傷が疼き血が地面に滴る。
だが、彼の心は彼女の言葉に縛られていた。
「行け、蘭花。」
彼の声は更に低くなり感情が混ざったまま吐き捨てるように言う
警官としての冷静さを保ちつつ蘭花への愛と罪悪感が彼を押し潰していた。
蘭花は仮面の奥で一瞬沈黙し動かなかった
「味野…ごめん。」
彼女の声は小さく仮面の下で涙がこぼれたかどうかは見えなかった
味野は彼女から目を逸らし腕の傷を押さえた
「早く。」
彼の声は抑えた口調だったがどこか痛みに満ちていた
蘭花は一瞬彼を見つめ、胸の奥で締め付けられるような痛みを感じた
「…ありがとう。」
彼女は小さく呟き仮面をそのままに身を翻して闇の中へ走り出した
彼女の足音が遠ざかる中味野は拳を握りしめ地面を睨む
銃撃戦の喧騒が彼を包むが
彼の心は蘭花の背中を追いかけていた
「…何やってるんだ、俺…」
彼の呟きは銃声と波の音にかき消され
蘭花の姿は倉庫街の闇に溶け味野は一人血の滴る腕を押さえながら立ち尽くした