第12章 新たな事件
家に戻った味野は玄関で靴を脱ぎ
暗いリビングに倒れ込むようにソファに座った。
テーブルの上には、空のウィスキー瓶がそのままで
彼はそれを見つめ目を閉じた。
翌朝味野はいつものように警察署へ向かった
制服を着込み拳銃をホルスターに収める。
鏡に映る自分の顔は疲れ切っていて
こめかみにある自殺未遂の傷を隠すように深くキャップを被った。
「味野、例の麻薬取引の件、進捗どうだ?」
同僚が、署の廊下で声をかけてきた。
味野は無表情で口を開く
「調査資料、昼までに出す。現場のデータも確認済みだ」
相手は眉をひそめた。
「お前、最近ほんとロボットみたいだな。なんか…話したいことないか?」
味野は無理に笑い首を振った
「はは……ないよ。
ただ、仕事に集中したいだけだ」
彼はデスクに戻り書類に目を落とした
麻薬取引、窃盗団、暴力事件...
町の犯罪は尽きない。
没頭すれば蘭花の顔を相棒だった彼の笑顔を押し込められる
それが、味野にとっての唯一の逃げ道だった。
だが書類をめくる手がふと止まった
蘭花の声が、頭の奥で響いた。
「味野も、ね」
――彼女の小さな笑顔が、胸を刺した。