第11章 蛍光灯のひかり
味野はビール缶を握り目を海に向けた。
「…毎日、忙しいよ。
犯罪が尽きねぇ...
この町腐ってるなって思う時もある」
彼はぽろっと本音をこぼしすぐに口を閉じた
蘭花への罪悪感、
仲間への裏切り、すべてを仕事で押し殺している
そんな自分を彼女に悟られたくなかった。
蘭花は小さく笑ったが、
その目は悲しげだった
「…そっか。味野、忙しいんだね」
彼女の心に冷たい確信が走った
彼は遠い人だ。
警察官として犯罪を追う彼と犯罪に手を染める自分。
同じベンチに座っていてもまるで違う世界にいるようだった
「味野はさ、寝れてる?」
蘭花がふと尋ねた。
彼女の声には気遣いと
どこか自分を試すような響きがあった
味野はビールを一口飲み、苦笑した。
「…これがないと、な。
頭ん中、うるさいんだよ」
彼は蘭花を見なかった。
彼女の顔を見れば、言わないはずの言葉が出てしまいそうだった
蘭花は頷き、缶コーヒーを握りしめ
「…私も。最近、頭の中うるさいよ」
彼女はそれ以上何も言わなかった
味野への愛はまだ胸にあった
だが烏の娘として生きるたびその愛は薄れぼやけていく。
二人は再び黙った
波の音が二人を隔てる壁のように響いて
ベンチに座る二人は近づけない距離をただ感じていた