第9章 気付いてしまった孤独
一件が一段落して
署を出たのは夜の10時を過ぎていた
港の空気は潮の匂いに満ち冷たい風が味野の頬を刺した
彼はパトカーに乗り込む前に遠くの海を見渡す。
月は雲に隠れ暗い波が静かに揺れていた
あの夜、蘭花を海辺で拾ったことを思い出していた
彼女の冷たい体、壊れそうな身体…
彼女が初めて笑った朝。
あの瞬間味野は確かに生きていると感じた
「くそっ…」
彼は拳を握り頭を振った
思い出してはいけない。
彼女は敵だ。
彼の仇の妹だ。それなのになぜ心は彼女を求めるのか。
味野は車に乗り込みエンジンをかけラジオから流れる雑音が、頭の中の声を掻き消してくれた
彼はアクセルを踏み夜の街へ走り出した
次の事件が彼を待っている。
それでいい。
それだけで安心出来た