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空白の少女と海の記憶

第8章 月下の決意




蘭花はグラスを置き手すりに両手を置いた。
月光が海に反射しまるで彼女の心を映すように揺れている

「お兄ちゃん…」

ハンの顔が浮かぶ
口が悪く冷酷なギャングのボス。
でも彼女にとっては幼い頃から守ってくれた唯一の家族だった

彼女が烏の娘として自分自身を立たせていたのはハンの愛があったからだ
彼の相棒が死んだあの銃撃戦で蘭花はハンを守るために飛び出した。
兄を失うことが彼女にとって最大の恐怖だった

「ごめん、お兄ちゃん。私…彼のことも愛してる」

蘭花は呟き胸を押さえた
ハンへの愛は、家族としての深い絆
味野への愛は、敵である彼が与えてくれた初めての温もり。
二つの愛は蘭花の心を引き裂いた

味野の家での時間が頭をよぎる
スープを飲みながら笑った朝
海を眺めながら交わしたたわいない会話
そしてあの夜の憎しみと愛が混ざった彼の腕

蘭花は目を閉じ頬を伝う涙を拭った。

「味野…あなたも苦しいよね。
私と同じくらい…」


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