第7章 彼の影
彼女の小さな笑顔が闇の中で光り
味野の心がほんの一瞬躊躇した。
バンッ
銃声が家に響く。
だが弾は味野の頭をかすめ壁に突き刺さり
左のこめかみに浅い傷が走り血が一筋頬を伝った。
「くそ…っ!」
味野は銃を置き頭を抱えた。
死ぬ勇気さえない
生き続けることの重さに耐えられなかったのに
彼はソファーに崩れ落ち肩を震わせて泣いた
どれだけ時間が経ったのかわからない。
夜が深まり月明かりが窓から差し込んだ
「蘭花…お前は、こんな俺を…どうして…」
何度も問うてもこたえは帰ってこない。彼は銃を見つめた
死を選ばなかった自分を呪いたかったがどこかで蘭花の言葉が彼を縛っていた。
彼女は、味野を赦そうとし敵である自分を愛してくれた
味野はゆっくり立ち上がり傷を拭う
血は既に止まっており軽い傷だった。
鏡に映る自分の顔は憔悴しきっていた。しかし、その目には微かな光が宿っていた。
「彼女が…俺を必要としてるなら…」
彼は拳を握り窓の外を見た。
海は静かに揺れ
まるで味野の心を映すように穏やかでだが深い闇を湛えていた。