第7章 彼の影
蘭花が去った後、
海辺の家は静寂に支配された
波の音だけが、遠くで絶え間なく響いている
夕陽の赤い光が消え部屋は薄暗い闇に沈み
味野はソファーに腰掛け開けっ放しのウィスキー瓶を握りしめていた
蘭花の声が頭の中で反響する。
「味野は、敵でも私の大事な人だよ」
彼女の涙、震える手、純粋な瞳。
あの瞬間味野は彼女を愛している自分を再確認してしまう
だが、同時にその愛が許されないことも知っていた。
「蘭花…なんで俺を…」
彼は呟き瓶を口に当てた。
焼けるような酒が喉を通るが心の痛みは消えない
彼女は烏の娘。
敵だ。
彼女の兄ハンは味野の相棒を殺した男だ。