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空白の少女と海の記憶

第6章 家の中の静寂




二人の間に長い沈黙が流れた
波の音がまるで彼らの心の揺れを代弁するように響く

「私ね…。烏の娘って書いてるでしょ…。
烏の娘として受け入れられ幼い頃から殺しをしてきた」

彼女は語る

ボスは昔兄ではなくて前ボスは優しい人ではなかった
兄に変わってから蘭花は大切な人を守るため
そのために表情がわからないよう見られないよう仮面を被り動いた

味野との出会いが初めて彼女に「普通の生活」を夢見させたこと。

短い期間だったが殺しをしない生活は蘭花に光をさした。


黙って聞いていた味野は蘭花の手を握り
そっと額を合わせ
「蘭花…俺はどうしたらいい?
お前を愛したいのに憎しみが消えない。ハンを…烏を、許せない」

蘭花は微笑み弱々しく頷いた
「それでいいよ。味野が全部許せなくても私には…。
私も…ハンのこと理解出来ないときがある
でも愛してる。それと同じ」

外では夕陽が海に沈み、赤い光が部屋を染めた
二人は立ち上がり窓の外を見た
潮風がカーテンを揺らし彼らの間に新しい空気が流れた気がした

「ハンに…話すんだろ?」
味野が呟いた
「あいつ、俺を殺しに来るかもしれないな」

蘭花は小さく笑う
「お兄ちゃんはボスだけど私のこと信じてる。
私が選んだことを受け入れるよ
…たぶん」

味野も、初めて小さく笑った。
「たぶん、か。
…蘭花、お前ほんとバカだな」

「うん。味野も、ね」

二人は肩を並べ窓の外の海を見つめた

赦しへの道は遠く、憎しみはまだ消えない
だがこの瞬間、二人にはそれで十分だった

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