• テキストサイズ

空白の少女と海の記憶

第6章 家の中の静寂




左肩の痛みに顔をしかめながらも彼女の足取りは揺るがなかった

「私の知っている味野は、
私を助けてくれた。
海で死にそうだった私を拾って温めてくれた」

彼女の声が震え涙が頬を伝った。

「あの夜、確かに怖かった。
…でも、味野の手に優しさがあった。
怒りと悲しみの中に…ちゃんと愛があった」

「愛?」

味野は振り向き彼女を見据えて

「ふざけるな、蘭花!
俺はお前の敵だ。
烏の娘を、俺は…憎むべきだったのに!」

彼の声は罵声に変わりテーブルを叩く
だが、その目には涙が浮かんでいた

「お前の兄貴は、俺の相棒を殺した。
あの夜、俺の人生はめちゃくちゃになった! なのに、お前を見てると…憎めねぇんだよ…!」

蘭花は一瞬息を呑んだ
彼女の胸に記憶の断片がよみがえる。

警官の叫び声、銃声、味野の苦しげな顔。
そして彼女が海に落ちる前のハンの笑い声。

「味野…ごめんね」

蘭花の声はまるで壊れそうなガラスのようで語尾が小さくなっていく

「ハンが…お兄ちゃんが、
どんなことをしたのか、私も知ってる。
でも味野が私を撃った時憎めなかった
…好きだったから」

彼女は一歩近づき、味野の震える手にそっと触れた。

「味野の痛み、全部知りたい。
私の痛みも…知ってほしい」


味野は彼女の手を握り返したがすぐに離した
/ 65ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp