第1章 1
「ふぅ…危ないところやった…」
ドルチェの一言により、慌てて走ってきた神官にトイレの場所を聞いた俺は、一目散にトイレ目指して走った。
…あぁ、もう。
恥ずかしくて走ったのか、切羽詰まって走ったのか、分からんくなってきた。
取り敢えず分かるのは、情けない走り方をしてただろうっちゅうこと。
カッコいいと巷で評判の『Arc』のメンバーが…こんなんでえぇんやろか……
ともかく無事に用は足したが、またしても問題が。
「……どうやって帰るんやったっけ…?」
皆がいる場所への帰り方が分からない…!
神殿内を右に曲がり、左に曲がり、また右に曲がり……。
行けども行けども、皆の声さえ聞こえてこない。
いっつも賑やかなメンバーの声が聞こえへんってことは、神殿の相当奥深くまで迷い込んどるっちゅう訳で…。
「あかん…完全に迷った…」
さっきから同じところをグルグルと回っとるような気がして、俺は壁に手をついて足を止めた。
「さっきのドルチェみたいにデカイ声で叫べば、誰か来てくれるやろか……いや、アカン!!これ以上情けないところを見せられん!!」
俺は頭をブンブンと横に振った。
その時、近くで物音が聞こえた。
──ぱしゃんっ、と水が跳ねる音。
…しかも、何度も。
その音は大きさも感覚も不規則で、誰かが故意に立てているに違いない音やった。
俺は辺りを見回し、音がする方へと走った。
光が差し込んどるところから音がする方を覗き込んだ俺は、目に飛び込んできた光景に釘付けになった。
──目の前に現れたのは、大きな噴水。
そして、その噴水に佇む人影。
その周りには…何故か雪が舞っていて…。
人影は噴水に手を入れ、ぱしゃぱしゃと水と戯れとる。
その顔からは……憂いが感じ取れて…。
でも…………キレイで。
──俺は知らない内に、その静かで陰のある光景に見とれとった。
と。
人影が顔を上げた。
そして俺を見つめる。
「わっ」
その目がまた澄んだ水のようにキレイで、思わず俺はドキッとして後ずさった。
人影は澄んだ瞳のまま、首を少し傾げる。
その動きに、髪飾りがしゃら、と揺れた。
「あなたは…誰?」
その声に俺はハッとした。