第3章 3
ヒュッとアリアの目が丸くなる。
それから、もう一度街を見る。
「あれが……カデンツァ…?……私の…」
「そう、アリアの街や」
俺が頷くと、アリアは目に涙を溜め声を詰まらせた。
「カデンツァ……私の街……」
唇を噛み、目元を拭う。
「……キレイ……」
「…キレイやな」
──チラチラと瞬く街の明かり。
もうすぐ夜が明けて日が登り、また新しい一日が始まるだろう。
何も変わらない、でも何か変わった、新しい一日が。
俺ははぁ、とため息をついた。
「ホンマはこれとは別に見せたいものがあったんやけどな……」
と、アリアが振り向いた。
「レガート」
「ん?」
「ありがとう」
「…!!」
笑顔で礼を言うアリア。
それは…とても美しい笑顔やった。
──憂いの入った笑顔やなくて、心からの笑顔。
俺は口元を手で覆う。
(……ヤバい、ホンマにヤバい。アカン、俺今、絶対顔赤い……っ!!)
「どうかしたの?レガート」
「い、いや、な、な、何でもない」
不思議そうに俺の顔を覗き込むアリア。
俺は慌てて後ずさった。
その時、カーン……と遠くで鐘の音が響いた。
───3時や。
気付いた俺は、姿勢を正した。
そしてアリアと向かい合う。
「……さっき」
「え?」
「結界をくぐれたやろ」
「……えぇ」
「10年前はくぐれなかったんに、どうしてか、分かるか?」
アリアは俺を見たまま首を横に振る。
俺は一度目を閉じ、ゆっくりと開く。
「それは、アリアの力が神官達よりも強くなったからや」
「え……?」
アリアが目を見開く。
俺は続けた。
「元々あの結界は、幼かったアリアを災厄から守るために神官が張ったものやったはず。結界は施術者よりも力の弱いものを拒む──内からも、外からもな。せやから神官と、神官が認めた者以外はあの結界をくぐることが出来んかった。……もちろん、小さなアリアも」
「だから…あの時、弾かれたの…?」
アリアが呟き、俺は頷いた。