第3章 3
♪♪♪
───闇。
漆黒の、とまではいかないが、宿から一歩外に出るとそこには闇が広がっとった。
神殿の周りには警備の神官もおらんくて、それが却って不自然に感じられた。
カデンツァにやって来た日、ようこそ、と何名かの神官に迎えられた正面の入り口。
俺はそこに歩み寄った。
白くて大きな2本の石柱の奥には、無防備に全開のままの神殿の入り口が見える。
「………」
俺は2本の石柱の間に手を伸ばした。
チリッと小さな音。
「結界…やな」
構わずに俺はそのまま足を進める。
抵抗を感じたのは最初だけ。
するりと、俺は結界の内側に入った。
神殿の内部はもうほとんど分かる。
───目指すは………噴水。
神殿の奥に向かうにつれて、ぱしゃんっ、という水が跳ねる音が聞こえてくる。
きっと……アリアが噴水の傍らに腰掛け、歌を口ずさみながら水と戯れとるに違いない。
……憂いを帯びた顔で…。
俺は真っ直ぐに音が聞こえる方へと歩いていく。
石柱の外と同じように、神殿内には警備の神官は一人としておらんかった。
やがて、廊下に月明かりが差し込んでいる所を見つけた。
俺は音を立てないように、その月明かりの中に立つ。
──噴水の傍らに、アリアがいた。
俺が思った通り、噴水の縁に腰掛けたアリアは作り物の月の下、小さな声で歌を口ずさみながら水と戯れとった。
俺は立ったまま。
アリアが顔を上げた。
そして、広場の入り口に立つ俺と目が合うと、動きを止めた。
徐々に目が丸く、大きく見開かれて、驚愕の表情が浮かぶ。
「………レガート……」
俺は笑った。
口を覆って驚いとるアリアはゆっくりと立ち上がり、俺の目の前まで歩み寄ってきた。
「どうして……どうしてここに……?今日は…街に泊まったんじゃ…」
「見せたいものが、あるんや」
俺は手を差し出す。
目の前に差し出された手を見つめてから、アリアは訳が分からない、という顔で首を傾げた。
首を傾げたアリアの手を、俺はぐっと掴んで引き寄せ、そのまま走り始めた。
「きゃっ…!!レ、レガート…!?どこへ?」
「………」
俺は無言でアリアの手を引いて、神殿の入り口へと走った。