第1章 1
「姫様はお産まれになってから、唯の一度もアクロポリスから出たことはありません」
「ん!?」
「必要な物は全て神殿に揃っていますし、側近である神官らが持ち込むことも出来ますから」
「ち、ちょい待ち」
ダンテが男の話を止める。
「アクロポリスの外に出たことが無いって……カデンツァの街にも出たことが無いんか?」
「えぇ。ガイアミュージアムに姿を現される他は、アクロポリスから外に出られたことはありません」
ダンテを始めとして、全員がえっ、と目を見開く。
「街に出たことがないって…」
「自分が守る街やろ?カデンツァは」
「街を知らずに守るって…」
「街に出たいとは思わないのかな…」
各々口にした言葉に、男は首を傾げる。
「さぁー…姫様はどう思っておられるかは…」
「自分が守る街を知らないっていうのは、アカンやろ」
「うんうん」
「よし!!それなら俺がカデンツァを見せてやろう!!」
「いや、それは俺が」
ドルチェとレグの目が一層輝きを増す。
と。
「それなんです」
「「え?」」
「くれぐれも姫様に手を出されませんようにお願いします」
「「なっ!!」」
ドルチェとレグが同時に声を上げる。
男は2人のその声を聞いて、素知らぬ顔をして前を向いた。
そしてそのまま口を開く。
「姫様はカデンツァを守ってくださる、神聖な女神。街人達にとっては、決して汚してはならない大切な存在なのです。──ですから」
男がまた振り向く。
「いくらあなた方が有名な『Arc』であっても、姫様を汚すようなことがあれば神官達だけでなく、街人達をも敵に回すことになりますよ」
「……だそうだ。2人とも、肝に銘じとかなあかんで」
男の言葉に、ダンテが隣に座るドルチェとレグを横目で見る。
「「………はい。。。」」
──俺らを乗せた馬車は、ガラガラと音をたてながら、カデンツァに向かって進む。