第1章 1
声がする方へ走り、辿り着いたのはさっきアリアと会った噴水の広場やった。
───噴水の傍らには、アリア。
しかし、さっきとちゃうのは、アリアが月に向かって手を延べて歌っとることやった。
………透き通るような…キレイな歌声……。
そして、青白い月の光に浮かび上がるアリアの姿。
──なるほど、『神聖なる女神』の姿や…。
「…誰?」
俺が壁の陰から気配を殺しながら様子を窺っとると、フッと歌が途切れ、アリアの目が俺を捉えた。
「あっ…す、すんません…邪魔してもうて…」
俺が小さく頭を下げて謝ると、アリアは不思議そうな顔をしてからふるふると首を横に振り、にっこりと笑った。
───俺の胸がまた、ざわつく。
「あ、えと…」
澄んだ瞳で真っ直ぐに見つめられ、口ごもる俺。
「また…迷ったの?」
「え、いや、そういう訳じゃ…」
アリアが首を傾げる。
俺は頭を掻き、顔を上げた。
「う、歌声が…聞こえた…から…」
「…起こして…しまったかしら」
「いや…眠れなくて起きとったから…大丈夫…です」
アリアが俺の言葉に微笑む。
「そう、良かった」
俺はその微笑みに、ほっと息をついた。
──サワサワと、俺とアリアの髪を揺らす風。
俺は目を細めた。
「ここで歌の練習を?」
「えぇ、ここが一番外に近いから」
そう言ってアリアは笑った。
外に…、と俺はアリアの言葉を繰り返す。
アリアは風に揺れる木の葉に手を延べながら頷いた。
「ここは神殿の中よ。私は…神殿から外へは出られないから…」
俺は目を丸くした。
───この人は、自分が外から隔離されていることを知っている…。
「ここは願えば見たい景色を映してくれる場所なの。……私の周りにいる神官達の力だけどね」
まるで、[私の力じゃないのよ]と自分に言い聞かせているかのように、どこか寂しげにアリアが笑う。
「なるほど…だからなんや…」
「え?」