第6章 新たな日々、非合理的な感情
歩いて数分。
裏路地のような場所に、ひっそりとした居酒屋があった。
木の引き戸。
灯りは控えめで、どこか安心する雰囲気。
相「……ここだ」
ガラガラ、と戸を開ける。
相「こんばんは。今、いけますか?」
「おや、相澤くん。仕事終わりかね?お疲れ様。いいの、入ってるよ」
相澤の後ろから、がひょこっと顔を出す。
「こんばんは」
「おや……」
じっと見て、にやり。
「いいねぇ。こんな可愛い子連れて。彼女かい?」
相「……違います。職場の同僚です」
「そうかい。でも誰か連れてくるのは初めてだねぇ」
意味ありげに店主は笑ってから。
「まぁ、ゆっくりしていきな」
⸻
座敷に通され、小さなテーブルを挟んで向かい合う。
湯気の立つお通しと、水が置かれる。
相「食べたいもの、好きに頼んでいい」
「え……」
相「日本酒は、甘口からいこう」
メニューを渡され、は真剣に文字を追う。
「……うーん……」
しばらく悩んでから、そっと顔を上げる。
「……あ」
相「ん?」
「あん肝……食べても、いいですか……?」
相澤の口元が、ほんの少しだけ緩んだ。
相「……渋いな」
立ち上がって、店主を呼ぶ。
相「あん肝と、刺身。酒は……甘口のおすすめを」
「はい、了解」
暫くして、料理と日本酒が運ばれてくる。
相澤が静かに徳利を傾けた。
綺麗な指先に目線がいく。
相「……じゃ、乾杯」
小さなグラスをコツン、と合わせる。
出された日本酒を一口含んだ瞬間、口の中に米の甘みが広がった。
「……っ、なにこれ……美味しい……」
思わず零れた本音に、相澤の視線が向く。
相「そうか」
短く、それだけ。
けれど、どこか安心したような声音だった。