第6章 新たな日々、非合理的な感情
少しだけ、視線を落とす。
「……実は」
言葉を選ぶように、ゆっくりと。
「私、昔から雄英に憧れてました。でも治癒個性だけじゃ、ヒーロー科には行けないって思ってて」
一度、息を吸う。
「戦えない。知識もない。だから……アメリカに行ったんです」
相澤は、何も言わずに聞いていた。
「ただ治すだけじゃダメだって気づいて。やっぱり、昔から憧れていた俊典さんみたいに戦えるヒーローになりたい…って」
指先を、ぎゅっと握る。
「5年かかりました。やっと、“自分の力だ”って言えるところまで来れた気がして」
顔を上げ、教室を見渡す。
「生徒としてじゃなくて。先生として、この場所に立てたのが……すごく嬉しいです」
相澤は、気づけば一歩近づいていた。
胸の奥が、静かにざわつく。
理由は分からない。
――あの時のように。
ただ、放っておけなかった。
相「……よく、ここまで来たな」
低く、確かな声。
大きな手が、そっとの頭に乗る。
「……っ」
一瞬、言葉を失う。
褒められたのは、いつぶりだろう。
認められたのは、いつ以来だろう。
相「……悪い」
はっとして、手を引こうとする。
「あ、違うんです」
慌てて顔を上げる。
「なんだか……嬉しくて」
少し潤んだ目で笑うその表情に、相澤は胸の奥が、ちくりと痛んだ。
相「……褒めるのは、教育係の仕事だ」
再び、頭に手が戻る。
今度は、さっきよりもほんの少しだけ長く。
相「努力してるやつは、ちゃんと評価する。それだけだ」
「ふふ……先生が褒めてくれるなら、もっと頑張れそうです」
相「合理的だな。伸びるなら、それでいい」
2人で、静かに笑い合う。
不思議と、居心地のいい沈黙だった。
相「…これで全部だ。丸一日かかったな。お疲れ」
「ありがとうございました!」
そのまま階段を下り、職員室へ戻る。