第15章 離れる覚悟、近づく気持ち ※微
味方だと思っていたウワバミまで、にこにこと背中を押してくる。
ウ「経験よ経験。ちょっと着るだけ。映るだけ。秒で終わるから!」
「…………」
気づけば、控室の空気ごと押し流されるように、はスタッフの手によってメイクルームへ。
着替えさせられ、手早く髪を整えられ、顔にハイライトとシャドウが施されていく。
鏡の中、自分とは思えない女がいた。
肩を大胆に出したドレス。
背中が大きく開き、脚には深いスリット。
耳元に揺れるラインストーン、ピンヒール。
(これ……本当に私?)
「さん、スタジオ入りまーす!」
肩をポンと叩かれ、気づけばもう照明の下。
耳に入るのは音楽と、カメラのレールが動く音だけ。
やや強引な演出指示が飛ぶ。
「はい、ゆっくり歩いて、髪に手を添えて、首傾げて……いいね、そのまま。もう一歩前!」
カメラの先に観客はいない。
だが、この光の中はどこか非現実的だった。
まるで、自分という存在を“物語の一部”として消費されているような、そんな感覚。
そのレンズの奥にいる誰かが、自分に癒しを感じるのなら。
胸の奥に、ふいに浮かんだ顔があった。
遠くて、近くて、触れられない、それでも確かに心を占めている人。
は、無意識のまま、ほんの少しだけ口元を緩めた。
恋をしている人だけが見せる、誰かひとりに向けたような、柔らかくて、切ない微笑み。
その瞬間、スタジオの空気が止まった。
誰も声を出さない。
指示も、囁きも、衣擦れの音すら消えて、ただその表情に見入っていた。
それが、あまりにも私的であまりにも美しい一瞬だったから。
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撮影を終えたが控え室に戻ると、八百万と拳藤が拍手で迎える。
拳「先生、めっちゃ堂々としてたじゃん!」
八「ますます尊敬してしまいました……!」
ウワバミはウィンクしながらこう囁く。
ウ「ほら、やっぱり光るもの持ってるわよ。芸能事務所からも声かかるかもね?それに、こういうのも経験よ。ヒーローらしさじゃなく、あなた自身の存在感を出すの。光を浴びるの、悪くないでしょ?あなたには魅せる力がある。それも、ヒーローの一つの武器よ」