第4章 別れの日、歩き出す先
翌朝。
知らない人たちが家にいた。
知らない言葉を使って、「事故」「不運」「気の毒に」と繰り返していた。
母は、帰ってこなかった。
昨夜の言葉だけが、頭に残る。
——母「一緒にお酒を飲もっか!」
それだけが、異様に鮮明だった。
泣くタイミングも、縋る相手もわからない。
ただ、息をするのが苦しかった。
気付けば外は暗くなっていた。
食べ物も何も口にしていない。
なんとなく、腰を上げた。
そして何も考えずに外に出た。
誰かのそばにいたかった。
でも、誰に会えばいいのかわからなかった。
気付けば、知らない場所でしゃがみ込んでいた。
⸻
相澤はその日、ひどく疲れていた。
新年の準備、担任、校内の調整。
考えることばかりで、頭が重い。
仕事帰り、視界の端に人影が入った。
路肩に、しゃがみ込む誰か。
本来なら、足は止まらない。
怪我もなさそうで、事件性もなくて、助けを求める声もない。
それでも。
なぜか、視線が外れなかった。
理由はない、説明もできない。
——ただ、放っておけなかった。
相「……大丈夫ですか」
声をかけてから、わずかに眉をひそめる。
俺らしくない。
相手は顔を上げた、暗くてあまり顔は見えないが、泣いてはいない。
けれど、どこか壊れかけた目をしていた。
相澤は一歩も近づかず、静かに続ける。
相「怪我はなさそうですね」
首が小さく振られる。
それで終わりのはずだった。
なのに、足が動かなかった。
少し離れた場所に腰を下ろす。
話しかけない、慰めない。
それでも、ここにいる。
それが必要だと、なぜか思った。