第4章 別れの日、歩き出す先
玄関を開けた瞬間、懐かしい匂いがした。
少し古くなった畳と、洗剤と、母の生活の匂い。
「ただいま…」
声に出してみて、やっと実感する。
帰ってきたんだ、と。
母「おかえり」
キッチンから顔を出した母は、少し老けたようで、でも笑い方は変わっていなかった。
母「大きくなったねぇ」
「それ、さっきから3回目」
母「だってさぁ」
そう言って、母は目を細める。
夕飯を食べて、近況を話して、アメリカの話を少しだけして。
全部が普通で、平和で、穏やかだった。
食器を片付けながら、母がふと思い出したように言う。
母「ももう20歳かぁ……」
一瞬、手が止まる。
母「……あ!」
母がくるりと振り返って、指を立てた。
母「そうだ!今日さ、初めて一緒にお酒飲もっか!」
「え?」
母「いいじゃんいいじゃん。記念だよ、記念!」
無邪気に笑うその顔に、胸が少し温かくなる。
母「じゃあ、ちょっと買ってくるね」
上着を羽織りながら、母は言った。
母「すぐ戻るから。は先にシャワーでも浴びてて!」
「一緒に行こっか?」
母「大丈夫よ、すぐそこだし!じゃあ、いってくるね」
「わかった、ありがとう!行ってらっしゃい!」
夜は静かだった。
時計の針が進んで、連絡もなくて、玄関も鳴らなくて。
「……遅いな」
事故かな、なんて思わなかった。
ただ、心配で、胸がざわつくだけだった。
それが不安に変わって、不安が恐怖に変わるまで、そう時間はかからなかった。