第12章 祝われる日、深くなる想い
天井を見つめても、瞼を閉じても、浮かぶのは一つの顔だけ。
手を伸ばせば届きそうで、でも届かない距離。
さっきまで使っていたシャーペンの感触が、指先に残っている。
少し迷ってから、爆豪はスマホを手に取った。
考えるより先に、通話ボタンを押していた。
――数コール。
「…もしもし?」
耳元で聞こえた声に、胸が小さく跳ねる。
「…勝己?」
爆「おう」
短く返して、少し間を置く。
爆「…今日、ありがとな。勉強、捗ったわ」
「そっか。それなら良かった」
その声が、やけに優しくて。
爆豪はぎゅっと布団を掴んだ。
爆「…名前も、嬉しかった」
「あ、気付いた?」
電話越しに、ふふ、といたずらっぽい笑い声がする。
爆「あぁ」
「…勝己、ってさ。すごくかっこいい名前だよね」
爆豪は一瞬、息を詰まらせた。
「己に勝つ、って書くでしょ?すっごく勝己っぽいなって思って」
爆「……」
「だから、名前入れたの。気に入ってくれて良かった」
心臓が、うるさくなる。
好きなのに。
こんなことをされたら、さらに好きになるに決まってる。
爆「……バカだろ」
「え?」
爆「まじで……はぁ……」
低く息を吐いて、天井に視線を投げる。
爆「覚悟しとけよ……」
「な、なにを……?」
爆「なんでもねェよ」
少しだけ間を置いて、はっきり言った。
爆「…俺、諦めるつもりねェから」
電話の向こうで、言葉が止まる気配がした。
「……」
爆「また明日な、」
「…うん。おやすみ、勝己」
通話が切れる。
爆豪はスマホを胸に置いて、目を閉じた。
爆(……ほんと、タチ悪ィ)
でも、その重さが、今は心地よかった。
その想いを胸に抱いたまま、体育祭の日が近づいていった。