第1章 Z=16 医者×魔導士=多忙な日々
昼間の騒がしさもどこへやら、科学王国が静まり返る夜更けの時分ーーー
ルーチェは一人、森の中を歩いていた。森の中の土を踏み分ける音だけが静かに響く。
(…誰か、いる?)
ルーチェ以外の動く気配を感じ、耳を澄ませる。
僅かな違和感がルーチェの全身を襲った。
「…ッ」
腰に差した短剣に手をかけ、茂みに身をひそめる。
そして、足音が目前に迫った瞬間、短剣を抜くと同時にルーチェは飛び出した。
「ひぇ、ちょ、たんまたんま!!ルーチェちゃん、おれおれ!!ゲンだよ!!ゲン!!」
目の前に現れたのは、ゲンだった。
ルーチェは肩の力を抜いた。
「……ゲン、なぜ??」
「いやぁ、ルーチェちゃんが夜なのに一人で森の中に歩いていく姿が見えたのよ。気になっちゃってさ、尾行ってやつ?」
それを聞いたルーチェは無言で短剣を鞘に納めた。
「怪しいことしてたわけじゃない。千空と龍水から石油探しを頼まれた。それだけ。」
「なるほどね…でも、どうやって?」
「…空から」
「そ、空から!?じーまーで!?」
ルーチェは表情を変えずにこくりとうなずく。
そのまま飛ぼうと、ほうきを出すと、ゲンの方をちらっと見た。
「せっかくだし、ゲンも来る?」
「えっ」
空を飛ぶ、という、発言にゲンは、鳩が豆鉄砲を食らったような顔をした。数秒たったぐらいだろうか、ルーチェの言葉を理解したのか慌てた様子で首を振る。
「いやいやいや、無理無理!高いとこ苦手だってばオレはっ!」
.