第2章 彼女の好きなこと
「まぁでも、テレビの向こうが別世界っていう気持ちは分かります。俺も昔はヒーローはテレビの向こう側の存在で、同じ世界にいるなんて思ってなかったんですよね」
ゴミが散乱する家で父親の暴言、暴力に耐え忍ぶ日々。
母親が庇ってくれることはなく、自ら逃げ出すこともできなかった。
ヒーローの活躍をテレビで見ることが好きだったが、同時に自分を助けてくれることはないと心のどこかで諦めていた。
「けどある出来事がきっかけでこっちと向こうは地続きだと分かった」
エンデヴァーが父親を捕まえてくれたのだ。
夢が現実になった瞬間だった。
「テレビの向こう側にいるヒーローもここにいるあなたも、もちろん俺も同じ世界に生きてますよ。白失さんはここにいていいんです」
隣のホークスに視線を移すと、穏やかな黄金色と鉢合う。
それでも臆病な白失は一歩を踏み出せず、小さく食い下がることしかできなかった。
「……でも、私は悪い人間です」
「いいえ、あなたは優しい人です」
どうして……?
どうしてあなたはこんなにも私に優しくしてくれるのですか?
周囲から責められ続け、それよりも長い間自分を責め続けて心をすり減らし、すっかり麻痺した白失にはうまく理解できなくて……
「さ、もう昼休憩終わっちゃいますし、そろそろ戻りましょうか」
ホークスに笑いかけられ、なんだか胸の奥がむずむずした。
―了―