第2章 彼女の好きなこと
テレビを見つめ、淡々と語る白失の横顔はやはり無表情だった。
「最初は私自身に使おうとしました。記憶を消せば痛みも苦しみも忘れて日々の罰にも耐えられると……でも、私の個性は自分自身には効果がなかった。だから周りに使ったんです」
自身には効かない個性は特段珍しいものではない。
プロヒーローでいうと、例えばミッドナイト。彼女の個性“眠り香”は本人が吸っても眠ることはない。
ただ、不思議なのは白失の経歴書に記載されていた個性では周囲の人間すべての記憶を消すことは不可能に近いはずなのに実行できている点。
そんなことが本当に可能なのか、
いや、時間をかければ可能ではあるが白失と知り合って1日以上経過したら一気に現実的ではなくなる。
それだけの時間、相手に触れ続けなければならないから。
「不思議そうな顔をしてます……ああ、ホークスは知りませんか?私の個性」
「いや、知ってますけどどうやって?あなたを記憶してから長い時間が経つほど難しいんじゃないですか?」
「その時間に記憶したものを全て消すのは同じだけ時間を要しますが、私の存在だけなら一瞬で消せるんですよ」
ホークスは以前目良から聞いた話を思い出した。
目良も白失の周囲の人間が彼女を覚えていないことに引っかかっていた。その上で彼女の個性にはまだ明かされていない効果があるのではないかと。
目良の推測は的中していたのだ。
「私は犯罪であると知った上で施設や学校の皆の記憶から私の存在を消しました」
「……でもそれは白失さんが自分の身を守るためでしょ。他の人を害する目的で使った訳じゃない」
白失は“罰”と言うが、以前ホークスが目良から聞いた話は明らかないじめだった。
本人は罪の意識から「そうされて当然」と思い込んでいるのかもしれない。