第2章 彼女の好きなこと
この光景はホークスも身に覚えがある。
まだ両親と暮らしていた幼い頃、テレビ画面の向こう側のヒーロー達に目を輝かせていたものだ。
「テレビの向こう側はとてもきれいで、皆が笑っていて、そういう輝く世界を見るのが好きなんです」
だが、そう答えた白失の瞳は画面の光をただ反射しているだけだった。
頭から布団を被り、座り込む姿もまるで何かに怯えて隠れているよう。
ただただヒーローに憧れる純粋な子供とは明らかに違う。
「……でもその世界に私はいてはいけない」
白失の声はヒーローニュースの音声にかき消されそうな程か細かったが、ホークスの耳はしっかり拾った。
「どうしてそう思うんです?」
「私が罪人だからです。幼い頃、この個性で両親の窃盗に加担しました」
「……白失さん、その時いくつだったんです?」
「5歳です」
「5歳の子供なんて親が世界の中心でしょ、責任能力なんてありませんよ」
「その後もです。私は施設に入って無許可で他人に個性を使うことが犯罪だと教わったにも関わらず、皆に個性を使いました」
あの頃は痛くて、辛くて、苦しくてどうしようもなかった。
自分の記憶を消すことができればどんないいいか。
でもどんなに願っても脳裏に刻まれた記憶を消すことはできなかった。
だから、
私はしてはいけないことをやってしまった。
私を叩く子達、悪口を言う子達、そして大人達に個性を使い、皆から私に関する記憶を消した。
……毎日頭が割れそうな程だった私の周りが一気に静まり返った。
まるでたった1人世界から弾き出されて、私の存在そのものが消えたような……
皆から忘れ去られ、無視され続けられるけれど、叩かれるよりずっといい。
お前が悪いのだと責められるよりずっといい。
水をかけられるよりずっといい。
服をハサミで切られるよりずっといい。
食事に虫を入れられるよりずっといい。
教科書やノートに落書きされたり、破られるよりずっといい。
靴や体操着を隠されるよりずっといい。
毎日毎日苦しい思いをするよりずっと……
それに自分がやったことなんだから。
そう自分に言い聞かせて滲み出る悲しさに蓋をして、誰かに何かされる前に記憶を消せば辛くないから、とその後も罪を重ねた。