第2章 彼女の好きなこと
「白失さんって趣味とかあります?」
いよいよ本格的に敵連合へ潜入する前の最終確認のために公安に訪れたホークスは、白失に会っていた。
これから内偵が始まることなど微塵も感じさせない会話だ。
白失が公安のグレーな捜査情報をリークしようとしたのを止めた日以来、ホークスは少しでも時間が空けば彼女に話しかけている。
彼女ができるだけ周囲と打ち解けられるように、
……できるだけ心を開いてくれるように、
しかし、それもおそらく今日で一旦打ち止め。
内偵が終わるまでは必要最低限の言葉しか交わせないだろう。
だから少し踏み込んで彼女自身のことについての質問をしてみた。
カフェオレが好きかと聞いて、コーヒーが嫌いだとしか答えられなかった彼女が少しでも多く好きなものを見つけられるといい。
尋ねられた白失は考え込む。
趣味……
音楽鑑賞や観劇、読書、旅行などが一般的な趣味という事柄だろうか。
音楽を聴く習慣はないし、観劇もしたことがない上、特に旅行に行きたいとも思わない。
唯一答えられそうなのは読書。
昔はよく図書館に入り浸って読書をしていたが、それは施設も学校も苦手だったからだ。
図書館なら“罰”から逃れられたからそうしていたまでのこと。趣味とは言えない。
「趣味と呼べるようなものは何も……」
口に出してすぐ後悔した。
きっとこれは彼の望む答えではない。
しかし、これ以外の答えが白失には思い浮かばなかった。