第1章 光を厭い 光に憧る
「私だけの力ではどうすることもできませんでした。だから世間にこの意味を問おうとしました。そのファイルはこれまで公安が行なってきたグレーゾーンの捜査、取り調べの情報をまとめたものです」
「そんなものリークしたらあなたの方がタダでは済まないでしょ、自分がどうなるか考えなかったんですか?」
「私のことはどうでもいい、どんなに汚れたっていいんです。どうせ元から汚れていますから」
「どうでもいいなんて言わんでください」
そんなに握り込んだら怪我しちゃいますよ、とホークスの手が白失の拳をそっと解く。
「もし仮にあなたがその情報をリークして、俺が潜入捜査から外れることができたとしても俺は喜べません」
「……なぜですか?」
「あなたを犠牲にすることになるからです」
迷いのない言葉に衝撃を受ける。
「……どうして?……私は犯罪者の娘です、敵になるしかない女です。そんな女、犠牲の内に入らないでしょう?」
「あなたは敵じゃなか」
そんなこと初めて言われた。
ほんの少しだけ胸の奥が温かくなる。
でも即座に否定が首をもたげてきて、白失の胸の奥を真っ黒に塗りつぶした。
「……あなたは私のことを知らない。だからそんなふうに言えるんです……」
幼い頃、乞われるままに個性を使い、両親の窃盗現場の目撃者の記憶を消した。
両親が捕まる間際に私の記憶を消し、自供内容を歪めようとした。
やがて入った施設でも罰が苦しくて耐えられずに皆から私に関する記憶を消した。
この個性で記憶を消した人の人数は数えきれない。
こんな罪深い女なんて……