第1章 光を厭い 光に憧る
脳裏にいくつか浮かぶ理由のどれも決定的ではなく、ホークスは自分の頭を掻いた。
「俺ってそんなに信用ならないですかねぇ」
「違います!」
普段物静かな彼女の大きな声。
「あなたはウィングヒーロー ホークスです!潜入捜査なんてあなたの仕事ではありません……!」
眉を大きく歪め、今にも泣きそうな顔で続ける。
「ヒーローがこんな所にいては駄目です。こんな……!」
「こんな?」
「……こんな、暗くて汚い場所にいちゃいけないんです」
固く握りしめられていく拳、わなわなと震える声で白失は絞り出した。
「公安は時に敵のようなやり口で捜査を行うこともあります。でもそれはヒーローに累を及ぼすものであってはならない。それなのに公安は、私達はっ、あなたに敵連合のスパイとなるよう命じた!」
激情を露わにする彼女を見るのはこれで2度目だ。
初めて見たあの日以来、2度目。
ああ、そうか、
彼女は怒ってくれていたのか、
目良からの事前情報があったとはいえ、この場で白失を止めたのはホークスにとって賭けだった。
何をしているか確実な情報を掴めていない中、下手をすれば記憶を消されるリスクもあった。
たが、彼女の激情の内を聞いてようやく確信した。
彼女はヒーローにスパイを命じた公安に怒り、なんとか潜入を回避できるようにと身の危険を顧みず動いていたのだ。
白失の激怒に対してこう思うのはどうかと思ったが、その気持ちが嬉しかった。
これまで喜ばれたり、感謝されたりすることは数多く経験してきたが、自分のために怒ってくれた人は初めてだ。
やがて彼女は送信しようとしていたファイルの中身と自分のことはどうでもいい、どんなに汚れても構わないと打ち明けてくれた。
そんなこと絶対にさせない。
こんな優しい人を救えずして何がヒーローだ。