第1章 光を厭い 光に憧る
自分のルックスの女性受けの良さは理解しているつもりだったのだが、忘野 白失にはとんと刺さっていないようだった。
引き留めることには成功したが、最初に見た時のような表情どころか、ほとんど無表情から変わらない。
声にもあまり抑揚がなく、感情も内心も読めない。
……全く隙がないし、すごく壁を感じる。
ホークスは浮かべた笑顔を崩さずに彼女の態度を分析した。
視線の動きや飲み物を持つ手の動作から緊張、動揺している訳ではなさそうだ。
質問の受け答えも正確そのもの、この点は公安職員らしい。
ただ表情が一切変わらず、それが妙に映る。
さてはこの人、ヒーロー嫌いか?
とも考えたが、それにしては嫌悪感を出していないのが不思議だった。
話題を敵の情報から当たり障りのない世間話に切り替えてみても、やはり態度は変わらない。
しかし、
「……コーヒーがあまり好きではないのです」
カフェオレが好きなのかと尋ねて返ってきた答えは予想していないものだった。
「あー、苦いですもんね」
「いえ、味は別に」
「えっ、じゃあなんで?」
ブラックコーヒーが苦いからカフェオレなのかと思ったら違うらしい。
「……黒い飲み物が嫌なんです。自分の中まで黒くなっていくような気がして」
そう答えた彼女の昏い瞳は、そんなことはあり得ないと軽く否定することを許さない真剣味があった。
きっと彼女がこれまでの経験から得たものなのだろう。