第6章 ・闇魂
「よし、ではまず何でも良い。刀を一振り抜いてくれんか?」
ベリアルの言葉に、ゾロは右腰に差している閻魔に右手を掛け、逆手の状態でゆっくりと鞘から抜いた。
それを器用に回転させ順手持ちに変えると、ベリアルの言葉を待った。
「うむ、では、これからエンチャントの手本を見せる故、しっかり見ておくが良い」
ベリアルはそう言うと、手にしている三叉の槍の穂先を下に向け、左手を槍の穂に翳し、呪文を呟く。
「アギダイン……エンチャント」
すると、ベリアルの左の掌から大きな火球が現れ、その炎は一瞬にして彼の左手全体に燃え広がった。
しかしベリアルは何食わぬ顔をしつつ、ゾロに説明を始める。
「見ての通り、先程の呪文を唱えてから火球がこの状態になる迄に、時間は掛からん……一瞬じゃ。これは他の魔法も同じ。ブフ系、ザン系、ジオ系……そしてメギド系……睡眠、毒等……全てこの状態から武器にエンチャントを掛けるのじゃ。では、続きじゃ」
炎の燃え盛る左手を、槍の穂の付け根辺りから穂先迄、炎を撫で付ける様に翳して行った。
すると、左手の炎が槍の穂に全て燃え移り、あっと言う間に炎の槍に変わった。
勿論、左手は火傷する事もなく、無事である。
ベリアルは言う。
「これが、エンチャントじゃ。どうじゃ、簡単じゃろ?恐らくオセは、接近戦は物理攻撃、遠戦は魔法攻撃……と言った戦い方をしていた筈じゃ」
「……ああ……確かに……奴は、そんな戦い方をしていたな……」
ゾロは、オセとの稽古を思い出し、呟く様にそう答えた。
ベリアルは頷き、更に説明を続ける。
「その戦闘方法に加え、エンチャントを使えば、接近戦でも相手の弱点を突きつつ攻撃する事が出来て、更に戦いは有利に進められる。まあ、今は何でも良い……刀にエンチャントを掛けてみるが良い」
ゾロは無言で頷くと、閻魔の刃先を下に向け、左手に集中する。
「……ザンマ……エンチャント……」
ゾロの低い声に応える様に、薄い緑色の小さな渦が、彼の左手を取り巻く様に現れた。
衝撃波が凄い速さで左手を中心にグルグルと回っている。
それはまるで、小さな台風の様であった。
その左手を、閻魔の刃に撫で付ける様に翳して行く。
途端、閻魔の刃の周りを、緑色の衝撃波がグルグルと回り始めた。