第1章 ・帰還
「……そりゃ、おれの事なのか?……このおれが……?そんな力を、本当に持ってるってのか……?」
そう訊ねるのが精一杯だった。
彼は訳が判らず、ただ大きく目を見開き、少年の顔をじっと見詰めるだけだった。
少年は、笑みを浮かべ返答する。
「そう、今話したのは紛れもない、君の事だよ、ゾロ。僕達は素晴らしい『力』を持つ君に会える事を、心から待ち望んでいたんだ」
ゾロは一瞬、言葉に詰まった。
そしてやっと一言。
「……それがおれなら……このおれが、何だってんだよ……」
ゾロは強がって言っては見たものの、内心では訳が判らず、混乱するばかりだった。
現実主義の彼は、神や悪魔、空想上の生物の存在を一切信じない男である。
しかし、見た事のない世界に辿り着き、得体の知れない少年や異形の者達を実際に目の当たりにしている現実に、彼の心臓の鼓動は徐々に速くなって行った。
何時もの彼なら、もっと冷静に対応している筈である。
冷や汗が、彼の頬を流れて行く。
少年はそんな彼の状況を見つつ、一息置いてから、また静かに語り始めた。
「……理解出来なくて当然だ。この世界……宇宙は、ニンゲンには理解できない事だらけだからね。突然の話で全てを受け入れる事は難しいだろう。君の中には、眠っている力があるんだが……まあ、君が事実を受け入れられず、力を得る事を望まないのであれば、そのまま元の世界に送り返してあげる事も出来るけど……どうしようか?」
少年のオッドアイが、一瞬キラリと光を放つ。
ゾロは、少年に心を見透かされている様な気がした。
彼は常に最強を求めている。
そんな彼が、今の自分の力に満足している筈がなかった。
少年は、ゾロの魂の底までをも見透すかの様に、鋭い視線を彼に向け続けている。
ゾロは数々の修羅場をくぐり抜けて来た、百戦錬磨の男である。
冷静沈着で警戒心も人一倍強く、得体の知れない出会ったばかりの他人の言葉を、簡単に鵜呑みにする男ではない。
だが、この時ばかりは違っていた。
彼は、少年の堂々とした態度や、推し計る事の出来ない不思議な力に、無意識のうちに引き込まれていたのだ。
更なる力を解放するか、それともこのまま元の世界に戻るのか。
(このまま……おれは、このままでいいのか……いや……)
彼は、目を閉じ心の中で自問自答を繰り返した。