第9章 ・宿命
「閣下、呼ばれて飛び出てたホー!」
通称『ヒーホー君』……その正体は雪の妖精『ジャック・フロスト』。
二股の青い帽子を揺らし、くるりと回ってポーズを取る。
ゾロは一瞬、固まった。
何処かで聞いた様な調子の良い台詞。
そして、妙なノリ。
(お、おれの気のせいか……なんか、こいつの言動……オカ魔野郎に似てるんだが……)
寒気を感じ、思わず後退りする。
「ヒーホー君、ご苦労だね。では、彼……ロロノア・ゾロをロイヤルルームへ案内して欲しい」
「ヒーホー!荷物はもう運んであるホー!お部屋にご案内するホー!!」
「よし、じゃあこのメニューを書いたメモを渡しておくから、後でゾロの部屋に食事を運んでくれるかい?」
「ヒーホー!承りましたホー!!」
メモを受け取ったヒーホー君は、それを帽子の中にしまい込む。
「ゾロ、部屋へはこのヒーホー君が案内してくれる……どうした?顔色が良くないみたいだけど?」
ルシファーの問いに、ゾロは苦笑いを浮かべた。
「え?ああ、大丈夫だ……色々ありがとな、ルシファー」
彼の心を読んだルシファーは、思わずくすりと笑った。
「ゾロ、大丈夫だよ。彼はここには来ないから。何なら、可愛い女の子でも、部屋に呼んであげようか?」
「え? あ……い、いや、ロバ野郎が来なきゃ、それでいいんだ……女とかはいいよ。独りでゆっくりしてえ」
「そうか。しかし……君は本当に硬派だね。そんな君にも、いつか可愛い彼女が出来るんだろうね……楽しみだなあ」
何か含んだ様な笑みに、ゾロは眉を顰める。
「何言ってんだお前。おれに、そんな女なんて出来る訳ねえだろ。下らねえ事言ってんじゃねえよ……さっさと行け。会議に遅刻するぞ」
「ふふっ……そうだった。じゃ、また明日」
満面の笑みを残し、ルシファーは青い光と共に消えた。
廊下に静寂が戻る。
ゾロは頭を掻きながら、誰もいない空間にボソリと独り呟いた。
「ったく、訳判らねえ……あいつ、相当疲れてんな」
彼は溜息を吐きつつ、ヒーホー君に視線を向ける。
「待たせて悪かったな。部屋迄、案内してくれるか?」
「勿論だホー!ゾロ様、瞬間移動するホー!こちらへどうぞなんだホー!!」
魔法陣の青い光が広がり、彼等の姿を包み込む。
光が弾ける様に消え、廊下には蝋燭の炎だけが残った。