第1章 ・帰還
「君の先祖……ロロノアの方だが……君の何代か前の先祖が我々の『仲魔』を呼び出した事があってね……その仲魔と交わったのだよ。結果、子が生まれたのだが、その子は普通のニンゲンとして一生を終えた。時が流れても、魔の血を引く子は生まれて来なかった……」
そこ迄聞いたゾロだったが、少年の言っている事がさっぱり理解出来ない。
(な、なかま……?呼び出したって……?何言ってやがるんだ、こいつ……)
彼は眉間に皺を寄せながら、心の中でそう呟いた。
一方で、少年の話は淡々と続いて行く。
「だが、刻は来た。変異が見られる子が、遂に生まれたんだ……魔の血を引く子……ニンゲンには感じる事の出来ない、我々と同じ『魔の力』を秘めた子が」
少年は遠くを見る様な目で、薄暗い広間の何処かを見詰めている。
ゾロは、思わず息を飲む。
「その者は見た目は普通のニンゲンだが、実態は違う。ニンゲンにはない、どんな重傷でも短期間で治癒してしまう回復力を持ち、驚異的な身体能力を持っている……それはその者が生まれながらに持つ『魔神』の証。完全に覚醒した瞬間、その者の肉体は魔の肉体へと変化し、僕達と同じく、死ぬ事も年を取る事もない、永遠の存在となる……」
ゾロは、体中に異様な寒気を感じた。
全身に、鳥肌が立つ。
(……ま……まさか……だろ……)
その額から、どっと冷や汗が流れ出る。
少年は、彼に鋭い視線を向けた。
「……ゾロ……もし君のその体に『強大な力』が眠っているとしたら……君はそれを、目覚めさせたいかい?」
ゾロは、少年の目をじっと見詰めた。
嘘偽りのない少年の瞳。
ゾロの全身から、血の気が引いて行く。
だが彼には、少なからず思い当たる節が多々あった。
彼は生まれ付き異常な程体が丈夫で、命に関わる重傷を負っても数日で完治すると言う、不思議な体質の持ち主であった。
並の人間であれば完治に二年掛かる酷い傷が、一ヵ月もせずに完治した事もあったのだ。
何度も死の淵に立たされながらも、その度に生還して来たのである。
彼自身、それは気合と体力で治して来たと思っていた。
この二十一年間、人間として生きて来た彼に取って、少年の話は流石に信じ難かった。
それは彼に限らず、誰でも同じ反応をするであろう。
話を聞かされた彼は、混乱しつつも、恐る恐る口を開く。